近年、あらゆる業態でカードやスタンプ・シール、はんこ等を使った「ポイント制」が導入されています。これは、当たるかどうかわからない豪華景品より、少しずつであっても確実な特典を望む消費志向の表れだと考えられます。一方、この全盛の中で長年続いた商店街等の「ポイント制」は、マンネリ化低迷しているのも事実です。
しかし昨今、「キャッシュレス決済にポイント」、「社会(地域)課題解決策にポイント」という「施策ポイント」まで現れる状況となりました。ここでは、時流でありながら、その実施効果が見えにくい「ポイント制」の有効性と問題解決策について、全国の消費の現場での実践を踏まえて検証します。これが小売業・サービス業関係者、監督官庁、指導機関、専門家等の方々の参考になれば幸甚です。
ポイント制とは⇒ ポイントカード、スタンプシール、はんこ等の総称。
ポイント制の特性⇒ まとまった商業集積がなく、地域内に商店(事業所)が点在している状態でも
成り立つ共同事業。(空き店舗対策に余計な労力を使う必要がない。)
ポイント制の目的は⇒ 本来、小売り・サービス業の販売促進策だったものが、昨今は、購買(利用)
金額やその頻度に関係なく、不特定多数の消費者を対象とする業種であれ
ば、ほとんどの事業所等で活用できるようになってきた。
ポイント制の種類⇒ ◆単独ポイント(特定の企業や事業所のみで発行と回収を行うもの)・・・出す
ときに経費が掛からず「回収(買物利用等)が値引き損」となる。
◆共通ポイント(商店街や地域などで発行と回収を行うもの)・・・最初に経費
が掛かるが「回収(同上)が売上げ」となる。
ポイント制の新たな役割⇒ 従来の販売促進策に加えて、少子高齢化や環境問題など、社会(地
域)課題解決策の一助となりつつある。
ポイント制の真髄⇒ 買い上げ額に応じたポイント制は、「多く買った人(あるいは結果的に高く買っ
た人)ほど多くの特典」がある。つまり、店に利益をもたらす優良顧客様ほど、
多くの恩恵があるという普遍的な公平性を持つ。(抽選の要素を減らす)
ポイント制の新展開⇒ ①「早くたまって、使いやすい」
②現金で買う人よりスタンプやポイントで買う人を優遇・歓迎
③イベントは「招待系」から「販促系」へ
④全店〇倍セール ⇒ 「各店〇倍セール」や「買いたい時の2倍券」
加盟店でありながらスタンプを出さない店がある | スタンプ事業永遠の課題です。そのために講演会が開催されますが、単発の講演会では効果はあまり期待できません。(講師が言うんだから間違いない。)まず、スタンプを出さない店主は講演会に出て来ないからです。かりに来ても、一度や二度よその事例を聞いたぐらいでは納得しません。出さない店主は、それなりの信念があります。「信念」とは何ですか。それは「損得」です。商売人ですからスタンプ効果を実感すれば出すようになります。 本当は、スタンプというものは出す時点(販売時点)の効果が大きいのですが、これはお店の側には見えにくい。ところが、スタンプ台紙が買物代金として戻ってくればスタンプ効果は歴然です。これは、本来、現金で買われるはずのものがスタンプ台紙に変わっただけであっても嬉しいものです。ですから、役員会等で、お店に台紙が返ってくる仕組み(イベント)作りをすることが問題解決につながります。また、出したスタンプ経費の元が取れる「業種別個店有効活用」の啓蒙活動も必要です。スタンプは「意識」ではなく「損得」で出すものです。 |
特価品にスタンプを出さない | 昔(平成4年以前)のスタンプは「おまけ」でした。ところが、「おまけで固定客化」は「一物一価・常時定価販売」の場合に通用することで、価格破壊の時代にはその神通力には期待できません。現在は、「おまけ」ではなく「値引き対策」なのです。別の言い方をすると、共同事業であるスタンプに、値引きに匹敵する価値を持たせて、個店ではできない、「顧客満足と利益確保の両立」を目指すのです。 「スタンプを出すことで利益率は下がるが、売り上げが上がる(かも)」という考え方は、今は成り立たちにくく、「値引きの一部とスタンプを置き換えることによって利益率を上げる」という取り組み方をしないとスタンプ経費の元は取れません。このように考えると、特価品にスタンプ(ポイント)を付けることこそ、この事業の「奥義」と言っても過言ではないのです。特価品にも付けなくてはいけません。ただし、目いっぱい値引きしてその上スタンプは付けられません。だから、値引きの一部をスタンプと置き換えるのです。 |
高額商品にスタンプを出さない | 一般的に高額商品は値引きが「付き物」で、値引きをしたものにはスタンプ(ポイント)が「付かないもの」という身勝手な「常識」もあります。これは、「定価に付けるが特価には付けない」という発想で、スタンプ(ポイント)を「おまけ」と認識している証拠。「おまけで差別化」といわれたスタンプが「価格破壊」によってその効力が薄れ、今日では、これを「値引きに匹敵する価値」ととらえ、「値引きの一部とスタンプ(ポイント)を置き換える」ことが一般的になりました。 値引き率とスタンプの倍率の相関表を作って、たとえば、「二割引するところを、一割引にするとスタンプ(ポイント)何倍まで付けられるか」ということを計算し、スタンプ(ポイント)経費を差し引いても二割引より値引き損が少なくなるようにします。金額だけで考えると、誰でも安いほうがいいに決まっている。そこにスタンプ(ポイント)を組み込むことによって、価格に関しても「顧客満足と利益確保の両立」を目指す。「値引きがいいですか?それともスタンプ?」は全く論外。 |
スタンプ(ポイント)は「納得料」で「安心料」 | 価格破壊の時代のスタンプ(ポイント)の役割を「納得料」と考えると、この事業の今後の方向性が見えてきます。同じ商品であれば誰でも安く買いたい。そのため、安い店を探して歩く。ここが安いと思って買って、後日、もっと安い店があれば落胆します。そして落胆が怒りに変わる。たまたま、その商品だけが高かったのであっても、この場合、消費者心理として、他のものまで高いような気がして二度と来店しません。 このようなとき、店が支払金額に匹敵するスタンプやポイントを付けていれば、多少高買いしていても納得できるというものです。だから、スタンプ(ポイント)は「納得料」なのです。また、店にとっても、自店より安く売っている店があると、すでに買ってくれたお客さんの気持ちを考えると心中穏やかではない。この場合も、スタンプ(ポイント)を付けていたことが「安心料」になるわけです。「価格破壊」によって、「おまけ」だったものが、「納得料」や「安心料」に変身したのです。 |
スタンプのイベントは何のためにやるのか | スタンプ(カード)のイベントの目的は三つ。第一は、スタンプ(ポイント)の価値を高めること、次に加盟店の利用を増やす、そして、新しいスタンプ(カード)ファンを増やすことです。よく行われる「招待系の企画」も、単に、「そのイベントに参加したいから加盟店で買物をする」ということより、「本来、〇〇円の価値のものが、2倍、3倍の価値で使える」という、スタンプ(ポイント)の価値を高めるためと考えるべきでしょう。 二番目は当然のことで、最後の、「スタンプ(カード)ファンを増やす」というのは、この事業は新しい収集者を増やし続けてゆかないとジリ貧になるという性質のものだからです。そして、この三つの目的が達成されるとスタンプ(ポイント)の発行高が増加します。ただし、このような時代ですから、前年並みでもイベント効果があったと見なくてはなりません。単発のイベント参加者が多いか少ないかで一喜一憂しないで、年間を通して、最終の数字で冷静に成否を判断
すべきです。 |
ポイント制における「直接販促」と「間接販促」 | スタンプ(カード)による販売促進には、「直接販促」と「間接販促」があります。前者は、スタンプやポイントの発行と回収に伴う一連の業務による直接的効果。たとえば、3倍セールで売り上げ増とか、高額回収や倍出し回収(いずれも、ためたスタンプやポイントが有利に使える企画)で新規客が増えたとか。一方、後者はスタンプやポイントの進呈により顧客情報を集め、それによって、販売促進を目指すという考え方です。そのため、以前(平成3年頃)は、「ポイントは顧客情報収集のためのおまけ」などという極論まで登場したほどでした。 このような発想ですと、顧客情報を集めただけで自己満足してしまうものです。商売は、「売れていくら」「儲かってなんぼ」。「2割の優良顧客が・・・」というのは、あくまでも個店や企業単位の発想であり、商店街等の組織で成果をあげたという話は聞いたことがありません。この事業に取り組むとき、冷静に、そして客観的に、「直接販促」と「間接販促」のどちらに主眼を置くのかを判断する必要があります。 |
量販店等のカードと、どこが違うのか | 量販店やチエ-ン店で、これだけ「ポイント制」が盛んになると、消費者は商店街等のスタンプとそれらの区別が付かなくなり、これが共同事業であるスタンプ(カード)の独自性の消滅と事業の衰退につながってきます。量販店等のカードは個店のカードやはんこと仕組みは同じで、「出すときは経費がかからず、回収が値引き」となるが、地域共同事業のスタンプ(カード)は、「最初に経費がかかるが、回収は売り上げ」となります。 この、「回収が値引きか売り上げか」の違いは大きく、大型店等では3倍、5倍、5%、10%とポイントを出す企画ばかりで「回収」を促進する企画を行っていません。回収すればするほど「値引き損」が増えるからです。これが、量販店等のカードの弱点であり、地域共同事業のスタンプ(カード)との相違点です。この違いを認識した事業展開で差別化を図ります。また、スタンプ(ポイント)に掛けた経費と考えられているものが、本当に「経費」として計上できるのか、単なる「値引き損」なのかという問題もあります。 |
烏山方式とは何だったか | 「烏山方式スタンプ」は、「イベントの魅力でスタンプの付加価値を高める」ものと考えられていますが、厳密には「昭和55年の法人税基本通達に則った税務処理を行い、課税対象となる利益を消費者に還元してスタンプの付加価値を高める」というのが正確で、むやみに、イベントに金をかけるというものではありません。その認識がないと右肩下がり経済のもとでは、事業運営が厳しくなります。 また、「回収差益を設定する」というのは、1枚2円のスタンプが350枚貼られた、本来700円の台紙を500円で回収したとき、200円の回収差益が残り、これを組織運営の基礎とする考え方です。このとき、加盟店に対して回収差益分は「お客さんに余分に貼ってもらう」という表現で店の負担感を少なくするイメージ付けをしています。一方、烏山方式以前のスタンプは、この「回収差益」を「手数料」という名目で別に徴収する形となるため負担感はあるものの、消費者還元額が明確になります。今後、両者の利点の組み合わせが重要となります。 |
スタンプ(カード)事業の広域連携(1) | 今後、様々な理由で各地のスタンプ(カード)会が統合・合併の方向に向かうでしょう。その際、ネックとなるのは小規模の会の出したスタンプ(ポイント)が、大規模の会に吸い上げられるという思い込みです。そこで、筆者は合併話の前に「まず、合同事業を実施して、消費者の反応(動き)を見極め、かつ、事業への取り組み姿勢のレベルを合わせること」を勧めています。 その期間中、それぞれのスタンプ台紙や満点カード等の相互利用可能とすると、小規模の会の加盟店が隣接する大規模の会の台紙や満点カードを多く回収し、その逆は極めて少ないことがわかります。これは、後で考えれば当然のことで、小規模の会のある町の住民は隣接する大規模の会のポイントをためているが、大規模の会のある町の住民は隣町の小規模のスタンプは集めていない。そして、ためたものが地元でも使えるとなると、このような結果になるのです。 |
スタンプ(カード)事業の広域連携(2) | スタンプ(カード)事業は「地域間競争」という意図で「地域限定」の考え方が支配的でした。しかし、昨今は隣町に買物に行っても、そこの量販店等で買物はするが、一般商店での買物は少ない。実情は隣接する市町村において、地域の商店同士の競合は極めて少なくなっているのです。それならば、近隣の複数の組織が統合・合併して事業展開するスケールメリットを優先させるべきです。 そこで、もう一度「スタンプの特性」を冷静に見直してみると、それは「組織的に実施するスケールメリットと同時に、個店独自の対応ができる」ということに尽きます。「個店独自」とは、全体ではやってないが、自店の事情で独自に「倍セール」や「倍出し回収」等の販促企画を実施することです。この個店独自を地区独自と置き換えてみると明確ですが、事業統合しても全体のスケールメリットを地域(町内・商店街)単位で独自に活かすことができます。このように、たとえ「消費者の行き来がない」位置関係であっても、スケールメリットを地区独自に活用できるのです。 |
三 十 年 ぶ り の キ ャ ッ シ ュ レ ス 化 |
先日、某県某市の国の補助事業を活用した「キャッシュレス化」の進捗状況を、国の調査官が途中審査に来られました。事前にお名前を聞くと、30年前に1~2度お会いした方だったので、私も同席して対応したのです。調査官も「あの時の…」と驚いておられ、私も、「今思えば、あれが、我が国のキャシュレス化の最初の試みでしたね。」と。 キャシュレス化の動きは、結果からすると平成初期からあったことになります。当時30歳代半ばだった私は、商店街役員として平成3年〜4年の「中小小売商業カード化モデル事業(全国1ヵ所指定・補助額8600万円)」に、企画書も申請書も一人で作成し取り組んだのです。今からすると、バブル崩壊前で国の制度としては大盤振る舞いでしたし、このチャレンジが後の私の人生に大きな影響を及ぼすことになったと思っています。 課題は1枚のカードに「ポイント・クレジット・プリペイド・キャッシュカードの機能を持たせ、且つ、商店街も百貨店並みに顧客情報管理をせよ。」というものでしたが、通産省(当時)のこの施策に、大蔵省(当時)から「待った」が掛かったのです。「商店街の発行するカードに、キャッシュカードの機能を持たせるなど、まかりならぬ」と。なるほど、監督官庁からすれば当然のことですが、国の施策には全くの素人だった私は、これが「縦割り行政」というものかと痛感したのです。 結局、平成3年時点で、「ポイント」と「クレジット」は一体化できましたが、「プリペイド」は、テレフォンカードは定着していたものの、ハイウェイカードは廃止寸前。そのような中、商店街が発行するカードに現金を預託する市民がどれだけいるかという問題もあり、中断せざるを得なくなりました。その後、スイカ、パスモなどの交通系と、量販店など流通系で「プリペイド」が実現するまで約10年の歳月を要したのです。 キャッシュカード機能は、その後10年を経てIT系の机上論により「デビット」と名前を変えましたが、これが全く鳴かず飛ばず。さらに約10年後に、デビットカードとして再登場し現在に至っています。当初は、「プリペイド」のようにFeliCa(ICカード)のシステムでしたが、近年、中国から逆輸入された形のQRコードを使ったほうがローコストということで、その方向となりました。 30年前を振り返ると、当時は「キャッシュレス化」という概念はなく、アナログの「スタンプ・シールのカード化」の利便性と「顧客情報管理」という発想が先行しましたが、以後、スタンプ・シールをカード化して業績が改善した処は全国でも皆無でした。しかも、寄り合い所帯の商店街組織で顧客情報の共有化などできるはずがなかったのです。そして今、また、IT系の机上論により「キャッシュレス化」が進んでいます。よほど慎重に取り組まなければ、また同じ轍を踏むのではないかと危惧しているところです。(20210222) |
店舗(企業)名 | 地域商業研究所(金尾敏郎) |
ふりがな | ちいきしょうぎょうけんきゅうしょ |
カテゴリー | コンサル・士業・専門家 商店街 |
所在地 | 811-4214 福岡県岡垣町松ヶ台5‐13‐11 |
電話番号 | 09087695304 |
代表者 | 金尾敏郎 |
設立(創業)年月日 | 1992-01 |
取り扱い商品・サービス | 地域や企業のポイント制の再生が専門 ・各種商品券・キャッシュレス決済 |
紹介文 | 地域や企業のポイント制(スタンプ・シールやポイントカード)の再構築、および再生が専門。ポイント等の業種別個店有効活用法・ポイント制・商品券・地域通貨等による地域循環型経済を目指す。 |
ホームページURL | https://www.facebook.com/kanao10/info |
メールアドレス | kanaot10@gmail.com |